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「過不足のない医療」を在宅の現場で実現する(やよい在宅クリニック 水口 義昭院長)

Interview

消化器外科医として大学病院で臨床・研究を重ね、海外留学も経験した水口院長が、なぜ在宅医療の道を選んだのか。その背景と、診療に込める思いを聞く。

居宅での看取りが多い理由

「一昨年のデータでは、居宅での看取りが237件でした」
やよい在宅クリニックでは、居宅で最期を迎える患者が多い傾向にあるという。

「ご紹介いただく患者さんの背景として、もともと居宅療養を希望されている方が多かったというのはあります」と前置きしつつも、「最近は医療支援型ホスピスなどの施設も増えてきており、それに比例して施設での対応も少しずつ増えてきている」と現状を冷静に語る。

患者数はおおよそ800名。1日の訪問ルートは7〜8ラインで回しており、夜間は非常勤医が対応する体制を取る。一方、日中は常勤医が中心となり診療にあたる。

「祝日や日曜日も、持ち回りで日中対応するようにしています。日曜日でないとご家族が揃わないケースもありますし、医療的なニーズがあれば対応する」
在宅医療の現場では、曜日に関係なく“生活”が続いていることを前提にしている。

消化器外科医から在宅医療へ

水口院長は北海道出身。平成9年に医師免許を取得後、日本医科大学付属病院で消化器外科医としてキャリアをスタートさせた。

「前半は、臨床と研究が中心でした」
大学院に進学し、解剖学教室で研究に没頭。その後、アメリカ・ピッツバーグ大学へ留学し、約2年半を研究に費やした。

帰国後も日本医科大学で消化器外科医として臨床と研究を続けていたが、2016年、大学の人事や自身の将来を見つめ直すタイミングが訪れる。

「このまま大学に残るのも一つの道ですが、思い切って別の道に進もうと考えました」
在宅医療に関心を持ち、宇都宮のさつきホームクリニックで研鑽を積む。その後、同じ志を持つ仲間とともに、2019年にやよい在宅クリニックを開設する。

「内視鏡や外来中心の内科クリニックはすでに多く、クオリティも高い。一方で、当時の在宅医療には、まだ改善できる余地があると感じていました」

「過不足のない医療」を届ける

やよい在宅クリニックが大切にしている理念は明確だ。

「とにかく、過不足のない医療を提供することです」
在宅医療では、制度上・仕組み上どうしても“不足”が生じやすいと水口院長は言う。

「診断、治療、生活支援、そのどれもが欠けてはいけない。医療的な適応だけでなく、患者さんやご家族の思い、生活背景、QOLを含めて考える必要があります」

治療方針を決める際には、臨床倫理の視点も重視する。「入院させれば済む話ではない。在宅という療養の場に医療を届けることが、私たちの役割です」

患者層と診療の特徴

患者の多くは、がん末期の患者である。
「消化器外科医として、肝胆膵など治療が難しい領域を多く診てきた背景もあり、がん患者さんは今も圧倒的に多い」

また、医療支援型ホスピスの増加により、神経難病の患者も自然と増えている。
小児では、重症心身障害児を中心に対応しており、先天異常や脳性麻痺、自閉症などのケースが含まれる。

「小児の診療は、必ず医師が経験するようにしています。ご家族との関係性や生活環境から学ぶことが非常に多い」

専門性を生かした診療体制

診療体制の特徴として、水口院長は「専門性で患者を分けている」点を挙げる。

「一般内科を診られることが前提ですが、形成外科や糖尿病など、それぞれの専門性を生かして診療しています」
その一方で、「動線は決して良くない」と率直に認める。
「回れる件数は減りますが、専門性を届けることを優先しています」

常勤医が担当する患者は、日々の変化が大きく、きめ細かな対応が求められるケースが多い。
「重症度の判断は非常に難しいですが、目を離せない患者さんが確実にいます」

看護師教育で重視する「同じ目線」

医師だけでなく、看護師をはじめとする多職種との関係性も重視している。

「患者さん、ご家族、関係職種と“同じ目線”に立つことが何より大切です。上から目線になった瞬間、関係は崩れます」

外部の事業所とのやり取りにおいても、言葉遣いや姿勢には細心の注意を払うよう指導している。「クレームになる前の小さな違和感を、きちんと拾うことが重要です」

生活環境と地域特性

文京区を中心とした訪問エリアでは、一軒家やマンションが多く、団地は比較的少ないという。一方、足立区など一部地域では、生活保護を受給している患者も一定数存在する。

「日本医大からの紹介が多いのも特徴です。医療機関からの紹介が中心で、地域の特性を強く感じます」

情報共有と24時間対応

24時間365日対応を維持するため、情報共有には力を入れている。
「毎朝、医師カンファレンスを行い、当直の動きや患者の変化を共有しています」

看護師とのカンファレンスも並行して実施し、LINE WORKSを用いたリアルタイムの情報共有も行う。「当直中の出来事は必ず記録し、全員が把握できるようにしています」

今後に向けて

「来年度以降、急性期医療がより在宅に入ってくると感じています」
大学病院で培った経験を生かし、急性期対応を含めた在宅医療を進めていきたいという。

「病診連携が、これまで以上に重要になります。在宅でも“できる医療”を、過不足なく届けていきたい」

そう静かに語る水口院長の言葉からは、在宅医療の現場に真摯に向き合い続ける姿勢がにじみ出ている。

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