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順天堂大学医学部 総合診療科学講座 診断学から教育、地域医療まで。総合診療のこれからを語る

Interview

順天堂大学医学部総合診療科学講座の内藤俊夫教授は、診断学の最前線から地域医療、そして人材育成に至るまで、総合診療の可能性を多面的に追求している。大学病院に訪れる患者の中には、原因が特定できない発熱や体重減少など、診断が難しい症例も多い。内藤教授は「不明熱と呼ばれる症例は、基準の3週間を待たずに受診される方も多く、迅速かつ的確な診断が求められます」と語る。こうした領域では、これまで施設ごとに異なる検査・診断手法がとられてきたが、日本病院総合診療医学会を中心に全国17施設のデータを集約し、共通化と標準化を進めてきたという。診断の偏りを減らし、より良い診療を実現するためのエビデンス構築こそが、総合診療学の使命の一つである。

一方で、総合診療はプライマリ・ケアから高度専門医療までをつなぐ“ハブ”としての機能も担う。内藤教授は「総合診療医の活動範囲は非常に広く、離島医療から大学病院の診断部門までが連続的に存在します」と話す。自身もかつて島で診療を行い、現在は大学病院で最終診断を担当している。「制度的にも、総合診療専門医は内科専門医とは別に3年間の研修があります。診療や研究だけでなく、病院管理、医療安全、制度運用といったマネジメントの領域までをカバーする必要があります」。多層的な現場での経験が、次世代の教育や制度設計の土台となっている。

感染症診療においても、総合診療科の存在感は大きい。順天堂医院では「抗菌薬ホットライン」を設け、各診療科からのコンサルテーションを受け、抗菌薬使用の適正化を推進している。薬剤部や臨床検査部との連携により、血液培養陽性例のモニタリングや不適切使用の是正を行い、感染症診療の質向上に貢献している。「感染症コンサルトは他科との関係構築にも重要な意味があります」と内藤教授は強調する。

また、予防医学の領域では、人間ドックのデータ活用を通じて健康な人々の経年変化を追跡し、疾患予防研究を進めている。大学病院としては珍しく「健康な方のデータ」も蓄積していることが特徴で、他科研究の正常コントロールとしても利用されているという。

近年注目されるAIの導入については、内藤教授も慎重に見つめる。「AIによる診断書や退院サマリーの要約は進んでいますが、コストやセキュリティの課題、そして教育的な懸念もあります。AIが文章をまとめることで、医師が自ら考え、情報を整理する力を失う危険もある」。そのため、病院専用AIの開発や匿名化処理を進めながら、効率化と教育の両立を模索している。

順天堂大学総合診療科の特徴の一つが、離島診療の継続的な取り組みだ。2000年から東京都・新島村に医師を派遣し、現在も3名の医師が常駐している。「離島では、家庭や地域全体を診るという経験を通じて、全人的に患者をみる力を養えます。島と大学の間で患者紹介もあり、地域の現場を知ることが大学での臨床や教育に大きな意味を持ちます」。地域を俯瞰する実践的な学びが、大学の教育・研究に還元される循環型モデルを形成している。

多疾患を抱える高齢患者への対応についても、総合診療の姿勢は一貫して「患者中心」だ。「初診で全てを解決するのは難しい。患者が最も困っていることを共有し、最初の1か月で取り組む課題を一緒に決めます」。そのために「問題リスト(Problem List)」を作成し、医療チーム全体で共有することが不可欠だという。曖昧なまま診断や治療に進むことを避け、共通認識をもって支援することが、治療の質を高める。

また、感染症研究ではHIV感染症の包括的診療を実践している。総合診療医が高血圧や脂質異常など他疾患も併せて診ることで、長期的な健康支援を行う体制を構築している。「HIV感染者の平均寿命は一般とほぼ変わらなくなりましたが、今後は高齢化に伴う生活習慣病や認知症などへの対応が課題です。総合診療医の関与がますます重要になります」。

教育面では、幅広い臨床能力を持つ医師の育成を目指しており、大学病院での複雑な診断に加え、地域でのプライマリーケアを経験できる教育体制を整えている。医療安全や病院管理などのマネジメント教育にも力を入れ、臨床・教育・研究を横断的に担う人材を育成している。AI技術を活用しつつも、人間としての思考力を育てる教育バランスを重視している点も特徴的だ。

今後の展望について内藤教授は、「総合診療科の学術的課題は、エビデンスの乏しい領域に知見を積み上げること。プライマリーケアと高度医療をつなぎ、臨床・教育・研究・地域貢献を担う総合診療医を社会の中核人材として育てていくことが目標です」と語る。

診断・教育・研究・地域医療——。そのすべてを横断しながら、新しい医療のかたちをつくる内藤教授の取り組みは、総合診療の未来を切り拓く羅針盤となっている。

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