書籍紹介

Book

医療の現場は常に変化し続けています。診療技術や知識のアップデートはもちろん、チーム医療の在り方、患者との関わり方、そして自身のキャリア設計に至るまで、求められる視点は多岐にわたります。

本記事では、医師として現場に立つ方はもちろん、これから医師を志す学生の方、また医療に携わる多職種の方々にも役立つ書籍を、ジャンル別にご紹介します。日々の臨床や学び、将来のヒントとして、ぜひ気になる一冊を見つけてみてください。

祈りのカルテ

著者:知念 実希人
出版社:KADOKAWA
発行日:2018/3/29

 

『祈りのカルテ』は、現役医師である知念実希人氏が描いた医療ミステリー小説で、研修医である主人公が日々の診療を通じて、患者一人ひとりの人生や抱えている事情に向き合う姿が描かれています。

カルテに記された情報だけでは把握できない患者の想いや葛藤、家族との関係性に触れながら、医師としてどのように寄り添うべきかを模索する過程は、医療現場における人間理解の重要性を改めて考えさせてくれます。物語には巧妙なミステリー要素も含まれており、読み進める中で自然に医療倫理や患者との向き合い方についての洞察を深めることができます。

単なるエンターテインメントに留まらず、医療従事者にとっては診療における心構えや思考の整理に役立つだけでなく、医療に関心のある一般読者にとっても、患者との関係や医療の現場をより深く理解するきっかけとなる一冊です。

無限病院

著者:著:韓 松/訳:山田和子
出版社:早川書房 
発行日:2024/10/23

 

『無限病院』は、近未来の病院を舞台にしたディストピア小説で、入院患者が果てしない検査や治療を繰り返し、退院することができない「無限病院」という空間で過ごす様子が描かれています。本作では、医療行為や病院という制度そのものを通して、効率優先の医療と患者の尊厳や人間性のバランスについて深く問いかけています。

フィクションでありながら、現実の医療現場を想起させる描写も多く、医療従事者にとっては、日々の診療や制度のあり方を別の視点から見直す契機となります。また、文化や国を超えて普遍的な問いを投げかける内容であり、医療の倫理や患者への向き合い方、制度の意義について考えるきっかけを提供してくれる作品です。

医療従事者だけでなく、医療制度や医療現場に関心のある一般読者にも、多くの示唆を与える一冊と言えるでしょう。

余命わずかの幸せ──在宅医の正しい寄り添い方

著者:山中 光茂
出版社:青灯社
発行日:2023/10/27

 

 在宅医療の現場で患者と家族に寄り添い続けてきた山中光茂医師が贈る一冊。

『余命わずかの幸せ──在宅医の正しい寄り添い方』では、医療の専門知識だけでなく、
患者の心に寄り添う方法、家族との信頼関係の築き方、
そして最期まで「その人らしさ」を守るための実践的なアプローチを具体例とともに紹介します。

余命宣告を受けた患者やその家族、医療従事者、
在宅医療に関心のあるすべての方にとって、心に深く響く内容です。

最期の時間をどう過ごすか――
その問いに向き合うヒントと勇気を、本書から得ることができます。

■ 閉鎖病棟

著者:帚木蓬生
出版社:新潮社
発売日:1997/4/25

 

『閉鎖病棟』は、精神科病院の閉鎖病棟を舞台にした小説です。そこには、さまざまな事情や病を抱えた人々が入院しています。過去の出来事によって深く傷ついた人、自分の居場所を失ってしまった人など、それぞれが孤独や苦しみを抱えています。

病棟の中で自由は限られていますが、その中でも患者たちは小さな喜びを見つけたり、仲間とのつながりに支えられながら生きています。一方で、暴力的な入院患者の存在や、外の社会からの偏見など、重い現実も描かれています。

作者の帚木蓬生さんは精神科医でもあるため、患者の心の動きや病棟の雰囲気がとてもリアルに描かれています。小説を通して、精神的な病を抱えた人々が社会の中でどのように見られているのか、また「人間らしく生きるとは何か」を考えさせられます。

禁忌の子

著者:山口未桜
出版社:東京創元社
発売日:2024/10/10

 

山口未桜さんのデビュー作『禁忌の子』が、2024年10月10日に東京創元社より刊行されました。本作は、現役医師である山口未桜さんならではの視点で、医療現場を舞台に描かれた本格ミステリーです。精緻に構成されたストーリーと、現場ならではのリアルな描写が見事に融合しており、読者に緊張感あふれる読書体験を提供しています。

物語は、救急医・武田のもとに搬送されてきた身元不明の遺体から始まります。しかし、その遺体は武田自身と瓜二つの顔をしており、事件は謎が謎を呼ぶ展開となります。医療現場での緊迫した状況、患者や同僚とのやり取り、そして登場人物たちの複雑な人間関係が絡み合うことで、物語に奥行きと厚みを与えています。読者は、事件の真相を追いながら、医療現場のリアルな息遣いを感じることができます。

『禁忌の子』は、第34回鮎川哲也賞を受賞し、さらに2025年の本屋大賞にもノミネートされるなど、出版前から注目を集めていた作品です。医療ミステリーとしての完成度の高さだけでなく、登場人物たちの心理描写や社会背景への洞察も評価され、多くの読者から支持を得ています。

本書は、ミステリー好きの読者はもちろんのこと、医療現場の臨場感や医師としての葛藤に興味を持つ方にも非常におすすめの一冊です。東京創元社の公式サイトや各書店で購入可能ですので、ぜひ手に取ってその緊迫感あふれる世界を体験してみてはいかがでしょうか。

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