在宅医療の現場から考える、これからの予防医学
順天堂大学医学部 総合診療科学講座
特任教授 横川 博英 先生に聞く、コロナ後の地域医療に必要な視点
コロナ禍を経て、医療現場は大きな転換点を迎えている。
感染対策を最優先としてきた数年間を越え、現在あらためて注目されているのが「予防医学」と「人と人との関わり方」である。
在宅医療や地域医療の現場では、疾患だけでなく、患者一人ひとりの生活背景や価値観を踏まえた医療が求められている。
今回は、順天堂大学医学部 総合診療科学講座 特任教授の横川博英先生に、コロナ後の地域医療における予防医学の在り方について話を伺った。
コロナ後に取り戻すべき「丁寧に向き合う医療」
昨年は、コロナからの回復期にあたる一年であったと捉えている。
少しずつ通常の医療が戻りつつあるものの、十分に取り戻せていない部分も残っていると感じる。
コロナ禍では、感染対策が最優先となり、患者との距離が生じた。
対話を重ねながら説明する医療や、患者と一緒に考える時間を確保することが難しい状況が続いた。
今後は、そこをさらに一段階進める必要がある。
患者と正面から向き合い、丁寧に説明し、理解を確認しながら進める医療を取り戻すことが重要である。
患者自身の参加意識も高まりつつあり、予防医学を前に進める土壌は整いつつあると感じる。
生活習慣病予防の基本は食事にある
生活習慣病の予防や改善において、最も重要な要素は食事である。
これは時代が変わっても変わらない基本である。
コロナ禍では、「これを食べれば感染しない」「これが体に良い」といった情報が数多く流通した。
十分な検証が行われないまま信じられた情報も多く、その影響はいまも医療現場に残っている。
健康のために何かを足そうとする発想は根強いが、食べれば血糖値は必ず上がる。
栄養ドリンクやサプリメントも、摂取量を誤れば体に負担をかける。
「体に良いことをしているつもり」が、結果的に過剰摂取につながっているケースは少なくない。
在宅時間の増加が生んだ新たな生活習慣の課題
コロナ以降、在宅時間が増加したことで、間食が習慣化した人は非常に多い。
「何か口にしていないと落ち着かない」という状態が日常化しているケースも見受けられる。
また、健康情報の混乱も大きな問題である。
食事療法やワクチン、健康食品に関して、科学的根拠に乏しい情報が広まり、冷静に考えれば不自然な内容でも受け入れられてしまった。
最終的に選択するのは本人であるが、特に食事に関する誤解は、現在も在宅医療の現場で強く感じられる課題である。
数値以上に重要な「誰に伝えるか」という視点
在宅医療では、血圧や血糖値、脂質などの数値を扱う場面が多い。
その際に最も重要となるのは、「誰に伝えるか」を見極めることである。
高齢の患者本人に何度説明しても理解が難しい場合がある。
そのような場合には、配偶者や子どもなど、理解力のある家族をキーパーソンとして説明する。
数値を示すだけでは、行動変容にはつながらない。
対面で分かりやすく説明し、日常生活の中でどのように活かすかを共有することが重要である。
高齢者医療における目標値の考え方
高齢者の生活習慣病管理においては、若年者と同じ目標値にこだわる必要は必ずしもない。
それよりも虚弱性や臓器機能、平均余命を考慮した上で判断することが求められる。
特に5年後、10年後に発症する可能性のある慢性合併症については、厳格な数値管理を行う必要はない場合もある。
一方で、脳出血や高血糖昏睡などの急性合併症は、確実に防がなければならない。
急性合併症は「必ず防ぐもの」、慢性合併症は「努力目標」と整理することが重要である。
この考え方を患者と家族に丁寧に説明し、合意を得た上で医療を進める必要がある。
在宅医療だからこそ求められる優先順位
在宅医療の現場では、複数の課題が同時に存在する。
すべてを一度に伝えようとすれば、患者の負担は大きくなる。
そのため、課題を整理し、優先順位の高いものから伝える姿勢が重要である。
今すぐ必要でない情報は把握しておき、必要になった段階で初めて説明すればよい。
この積み重ねが、無理のない医療につながる。
予防医学を支える多職種連携
地域で予防医学を実践するためには、多職種連携が欠かせない。
医師や看護師に加え、理学療法士や薬剤師の役割も重要である。
特に薬剤師は、服薬管理や残薬確認、誤用の防止において大きな役割を担う。
薬剤の誤用による意識障害は、今後さらに増加する可能性がある。
在宅医療は、医師一人で完結するものではなく、チームで支える医療である。
総合診療医に求められる役割とは
総合診療医の重要な役割の一つは、トリアージである。
すべてを自分で抱え込むのではなく、適切な専門診療科につなぐ判断が求められる。
患者が求めているのは、万能な医師ではない。
次に何をすればよいのか、どこに相談すればよいのかを示してくれる存在である。
情報を整理し、道筋を示すことこそが、総合診療医の価値である。
地域包括ケアの未来に向けて
行政には、より現場に足を運ぶ姿勢が求められる。
資料だけでは見えない課題が、現場には数多く存在する。
一定期間、実際に医療や介護の現場に関わることで、本当に必要な支援が見えてくる。
限られた予算をどこに重点配分するかという判断にも、現場の視点を反映させることが重要である。





















