【第2部】「体」があってこそ、心と技術が生きる
「体があって、技術があれば、心は自然についてくる」
-日々の仕事やスポーツでパフォーマンスを発揮する上でも、自律神経の状態は重要なのでしょうか。
それはすべてに関係すると思います。「明るくしろ」と言われても、元気でなければ明るくなれない。「動け」と言われても、元気でなければ動けない。「心技体」という言葉はきれいですが、現実的には少し違うと思っています。
体があって、技術があれば、心は自然についてくる。
メンタルが強い、弱いということも、結局は体の状態によるところがあると思います。まず体がしっかりしていること。その上に技術があり、そこから心がついてくる。そういう側面はあるのではないでしょうか。
一流の人は、起こり得ることを「想定内」にしている
― スポーツ選手やビジネスパーソンについて、「イレギュラーを想定内にすること」が重要だとおっしゃっています。
人間は、自分が思っていなかったことが起きると動揺します。一流の外科医と、そうでない外科医の違いも、そこにあると思います。
一流の外科医は、起こり得ることがすべて想定内になっている。合併症もそうですし、術中に起きることもそうです。想定内であれば、間違いなく動けますし、それに対する対応も的確にできます。
しかし、想定外のことが起きると、人間はパニックになる。パニックになれば、適切に対応することは難しくなります。
だからこそ、どれだけのことを想定内にしておくかということは、人生においても基本的なことなのだと思います。そのためには、準備も必要です。準備をしていなければ、いざというときに動くことはできません。
「ゾーン」とは、流れが良い状態
― スポーツなどでは「ゾーンに入る」という表現があります。先生にとって、ゾーンとはどのような状態でしょうか。
私の定義では、「流れが良い状態」です。流れが良いときは、ゾーンに入っている。
ただ、良い流れというのは、そう長くは続きません。重要なのは、流れが乱れたときに、どうやって元の状態に戻していくかということです。
例えばゴルフでも、調子が良くて「今日はいい」と思っていると、その次につまずくことがあります。そうした乱れが起きたときに、どうやって戻すかを考えておく。大きく崩れなければ、そこから再び戻すこともできます。
ただ、言うのは簡単ですが、実際にそう簡単に戻れるかというと、非常に難しいことだと思います。
経験が「先を読む力」につながる
― そうした考え方は、先生ご自身も日頃から意識されているのでしょうか。
難しいものだと思っていますから、比較的冷静に考えるようにしています。物事は冷静に判断します。
年齢を重ねて経験が増えてくると、起こり得ることがある程度読めるようになります。常に「死」というものを一番下に置いて考えると、それ以上に起こり得ることで重大なものは、そう多くありません。そういうことを考えながら物事に向き合っていると、経験も含めて、先を読む力が身についてくるのだと思います。

順天堂大学医学部附属 順天堂医院
総合診療科・病院管理学 特任教授
小林弘幸 先生
<経歴>
1987年、順天堂大学医学部卒業。1992年、順天堂大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科での勤務などを経て、順天堂大学医学部小児外科助教授、同大学医学部病院管理学研究室教授を歴任。現在は、順天堂大学 健康総合科学先端研究機構 特任教授。研究分野は、病院管理学、総合診療科学、スポーツ医学など多岐にわたる。

