【前編】「緩和ケアは人生に寄り添う医療」―診断時から始まる患者さんとご家族への支援
「緩和ケア=終末期医療」ではない
「緩和ケア」と聞くと、「人生の最終段階を支える医療」や「治療が難しくなった後に受けるもの」というイメージを持つ方も少なくありません。一方で近年は、がんと診断された早い段階から緩和ケアを取り入れ、治療と並行しながら患者さんやご家族を支えていくという考え方が広がりつつあります。
東京科学大学の佐藤科長は、「緩和ケアは、治療が難しくなった段階になって初めて関わるものではなく、がんの診断時から患者さんやご家族に寄り添い、安心して治療に向き合えるよう支援していく医療です」と話します。
緩和ケアの役割は、痛みや息苦しさなどの身体症状を和らげることだけではありません。不安や悩みといった精神的な負担へのサポートや、今後の治療方針、療養場所について一緒に考える意思決定支援など、多面的な役割を担っています。
東京都内唯一の大学病院緩和ケア病棟
東京科学大学病院には、15床の緩和ケア病棟があります。全国の大学病院の中でも、緩和ケア病棟を持つ施設は限られており、東京都内の大学病院では唯一の存在です。
緩和ケア病棟では、症状の緩和や療養生活への支援を必要とする終末期がん患者さんを受け入れています。また、院内には医師、看護師、薬剤師、心理士などで構成される緩和ケアチームがあり、主治医からの相談を受けながら、一般病棟に入院中の患者さんやご家族を支えています。
多職種だからこそ見える「患者さんの苦痛」
患者さんが抱える苦痛は、身体的なものだけではありません。病気への不安や将来への悩み、仕事や家庭への影響など、精神的・社会的な負担も大きな問題となります。
佐藤科長は、「一人の患者さんを多くの専門職がさまざまな視点で見ることで、医師だけでは気づけない苦痛や思いが見えてくることがあります」と話します。医師、看護師、薬剤師、心理士、リハビリスタッフなど、多職種が連携することで、患者さん自身も気づいていない不安や希望を見つけ出し、適切な支援につなげています。
患者さんらしい人生を支えるために
緩和ケア病棟では、入棟初日に患者さんとご家族との面談を行い、現在困っていることや、今後どのような生活を送りたいかを丁寧に確認しています。
「自宅に帰りたい」「家族と一緒に過ごしたい」など、一人ひとりの希望は異なります。
病室も単なる治療の場ではなく、「その人らしく過ごせる場所」であることを大切にしており、好きな音楽や趣味の品を持ち込むことも可能です。患者さんだけでなく、ご家族の思いにも耳を傾けながら、人生そのものに寄り添う医療を目指しています。
意思決定を支えるチーム医療
治療方針や療養場所の選択など、大きな決断を迫られる場面は少なくありません。緩和ケア病棟では、医師、看護師、心理士が日々カンファレンスを行い、患者さんやご家族の言葉や価値観を共有しています。
「患者さんのそばで最も長い時間を過ごしているのは看護師です。医師だけでは見えないことを、多職種が補ってくれます」
患者さん本人だけでなく、ご家族の思いも大切にしながら、チーム全体で支えていくことが、より良い意思決定につながっています。
後編では、佐藤科長が専門とする骨転移診療や、「最後まで自分らしく生きること」を支える緩和ケアの未来について伺います。

